今月の初めにたまたま用事があってプリスクールを覗いたところ、先生たちが子どもたちにアンガーマネージメントを教えているところでした。
先生が絵本を読み「イライラしたとき」「おもちゃが壊れてしまったとき」「お友達がおもちゃを貸してくれなかったとき」、そのときの嫌な気持ちをどう扱っていくのか、子どもたちと議論しながら進んでいきます。
いろんな子が手を挙げて、自分の意見を述べ、みんなで、解決策を話し合ったりしていて、とても頼もしく感じましたよ!
日本の感情調節スキル教育は、かなり遅れている
時間をかけて身につける必要があるアンガーマネージメントは、3歳から学びはじめるのがベスト!
ところで、日本ではどうなのかな?と思い、調べてみたところ、まだ小学校では取り入れられていないことが多く、ごくごく一部の幼稚園・保育園等のみでアンガーマネジメントの講習会を実施しているようです。
アンガーマネージメントとは、人間にとって自然な感情である「怒り」と上手に付き合い、自分で自分の感情をコントロールできるようにすることを目指す方法です。
アメリカでは、暴力予防機構なるものがあり、就学前からアンガーマネジメントを勉強する必要性についても結構知られています。
2014年にネバダ州で起きた中学校での発砲事件(教師1名射殺、クラスメート1名が怪我、犯行に及んだ生徒は事件後自殺)の後、アメリカでは、銃の問題だけでなく、「怒りの感情」に目を向けるべきだという声も聞かれました。
「怒り」という感情は、全身を緊張状態に陥らせたり、攻撃や破壊につながる行動を引き起こすことがります。
暴力行為や、いわゆる「キレる」というような行動を身につけてしまう前に、幼い頃から「怒り」のコントロール方法を知り、自分の感情を言葉で説明する力を伸ばす練習をし、時間をかけて習得させていくことが大切なのです。
日本でも、文部科学省の調査によると、児童生徒の暴力行為は10年前の6倍もの数が確認されているそうです。
暴力行為に及ぶずっと前から、その芽は育ってしまっているのです。
ですから、できるだけお子さんが小さいうちから「怒り」はコントロールできるものだということを教え、自分の感情を言葉にして表すトレーニングをスタートすることが大切です。
なぜなら、一度、暴力行為や怒鳴る、叫ぶといった行動パターンが身についてしまうと、それを変えるのは難しくなるからです。歳を重ね、繰り返されるうちにそういったものは癖となりますので、取り除くための労力も増えてしまいます。
そして、感情調節スキルを学ぶことは、親側にとっても素晴らしい効果があります。些細なことでイライラして感情に任せて怒ってしまったりするのを減らしてくれますから、虐待防止という観点でも非常に意味のあるものです。
本当は、子どもの健診のときなどに地域で定期的にセミナーなどがあるとよいのですが…
なかなかすぐには叶いそうにないですから、ぜひ自分で勉強していきましょう!
Sponsored Link3歳から始められるアンガーマネージメント
アンガーマネージメントについて
1 .アンガー(anger: 怒り)
怒りとはどんな感情なのかを考えてみると、一般的には、感情としての怒り(anger)、態度としての敵意(hostility)、行動としての攻撃(aggression)といったものが、軽いイライラ程度のものから激しいものまで、混在していることがわかります。
そして、怒りの表現手段には「攻撃的行動」「主張的行動」「受動的行動」の3つがあるとされています。
- 「攻撃的行動」ー「反応的攻撃(表出性・不表出性)」または「道具的攻撃」
- 「主張的行動」ー 問題解決型の対応
- 「受動的行動」ー 回避、逃避、無気力的な対応
「攻撃的反応」には、「反応的攻撃」と「道具的攻撃」というものがあります。
「反応的攻撃」では、つまり、嫌な出来事が刺激になりそれに誘発されて攻撃してしまうといったもので、その中の「表出性攻撃」は、その場で感情を言語的あるいは身体的に表出することです。
もう一つの「不表出性攻撃」は敵意とも呼ばれますが、怒りの感情を持っていても表現しないという特徴があります。これが非合理的にに処理されると「キレる」という現象になるのです。
「道具的攻撃」は怒りの感情なしに出現することもあり、目標達成のために攻撃反応を道具として利用するという意味です。
「主張的行動」というのは、感情を言葉にし、主張をすることで、直接的に問題を解決するということで、これは好ましい感情調節の方法だと言えます。
そして、最後の「受動的行動」は、無気力的になり、逃避などしてしまうことです。
2. マネージメント(management: 管理)
マネージメントと類似した表現にコーピング (coping)がありますが、この単語はネガティブな情動反応に対処して軽減するための試みといった意味合いになります。
これに対しマネージメントというのは、もう少し広い意味で、全体を管理するようなイメージです。
3. アンガー・マネージメント
アンガーマネージメントで管理するもの、コントロールするものには以下の3つが挙げられます。
- 怒りを誘発する刺激を減らすよう環境に働き掛ける
- 怒りを誘発する刺激を認知(解釈)し、評価する (相手や自分の中にある感情の種類や程度を理解する)
- コーピングスキルの獲得や修正
2つめに出てきていますが、自分の中にある怒りだけではなく、広い意味で見ていくと、他者の感情としての怒りをどのようにマネージメントするかという意味も持つのですね。それは、つまり「怒り」に振り回されている子どもを親が、保育士が、どのようにマネージメントするのか、といったことです。
「怒り」というものは悪い側面だけではなく、例えば「自分は何が嫌いなのか」「何をされると困るのか」といった、自分を見つめる良い材料にもなりますし、そもそも「怒り」は人間にとって自然な感情でもあるので、無くしてしまおうと思う必要はありません。
ですので、「怒り」という感情と上手に付き合い、自己コントロールできるようにすることが目標です。
アメリカでは、各州が力を入れており、児童生徒向けのプログラムがたくさん作られています。
3歳児から始められるアンガーマネージメントの方法
マネージメントが必要な3つのポイント
怒りを誘発する刺激を減らす
3歳児にとって、自分で自分の怒りを誘発する刺激を減らすのはなかなか難しいことです。ですから、刺激を減らすことに関しては、本人の様子を見ながら親が多少サポートしてあげる必要があるでしょう。
お子さんがどのような場合にイライラしたり大泣きをするか予測がつく場合には、そうならないために別の行動をすることを本人と話し合います。
- プレイデートでどうしてもおもちゃを取り合ってしまうお友達とどう一緒に遊ぶか?
- 自分でやりたいことをパパやママが邪魔をしないこと、手助けが必要なときに本人が申し出る約束をするなど
相手や自分の中にある感情の種類や程度を理解する
特に、自立心が芽生えてくると、親が本人の気分に沿わない行動をしてしまったり、本人が自分の希望通りにならないときにプリプリ怒ってしまったり大泣きをしたりする場面も多いと思います。
ついついこちらもイラッとしがちですが、そんなときこそこのアンガーマネージメントを思い出してください(笑)
そして、子どもに対しては、その都度、何が嫌なのかを言葉で伝えさせる練習を一緒にしてあげると効果的です。これが、自分の感情を理解する手助けになります。
3歳から取り組めるその他の内容には、主に感情の種類や程度を知ることが挙げられます。
まだ臨機応変に、とするのは少し難しいこともありますが、嫌な気持ちになったとき、どのような行動をしたらよいかをシンプルに教えて行くことは十分可能です。
実際に起こっている場面で冷静に話し合うのは大人でも難しいものです。お子さんがご機嫌なとき、落ついているときに、以下のような絵本を使って教えてあげるとより深い理解が得られるでしょう。
理解を促すために、絵本を上手に用いる
これらの本はアメリカの現地プリスクールでよく用いられている、感情調節スキル教育のための絵本です。
物語を読みながら、お子さんと所々で話し合ったりすると、とても効果的ですよ!
話し合うポイント
- 登場人物の感情を想像させる (悲しい、恥ずかしい、困っている、怒っているなど)
- 「この子はなぜ悲しいのかな?」などと問いかける
- 理由が分かれば、その子にどうしてあげればいいかを考えさせる
- 考えた結果を、実際にロールプレイする など
最初に紹介した絵本は、別の感情を教えてくれるものもシリーズで出ています。
日本語でも読めるものはこちら。
コーピングスキルの獲得や修正:具体的にどのように教えたら良いか?
以下の4つのステップを教えることをお勧めします。
- アラーム:怒ってしまいそうな状況になると、頭の中で信号が点滅するイメージを教える。
- 10カウント:怒りがわいてきそうなときやアラームが作動していると感じたとき、深呼吸してゆっくり10まで数える。
- 言い聞かせ:感情に任せて行動しないよう、自分で自分に言い聞かせる。
- リフレーム:目の前の状況に対する見方を変える。そのための質問を自分で自分にする。
リフレームということばは聞きなれないかもしれませんが、例えば、「なぜあの子はおもちゃを取ってしまったのかな?」「どうしてこのおもちゃは壊れちゃったのかな?」といった問いかけをして、考えさせることで、違った視点を持てるようになります。
この、2の深呼吸や、3の自分に言い聞かせる、のところで、マインドフルネスのメディテーションを取り入れるのも良いです。
日本語で学べるアンガーマネージメント:セカンドステッププログラム
「セカンドステップ」は、アメリカのワシントン州にあるNPO 法人、Committee forChildren (1978〜)により、虐待を防ぐプログラムである「ファーストステップ」に続いて開発されたものです。
このプログラムは、子どもが健全な対人関係を育んで、様々な場面で問題解決能力をを養っていけるようレッスンが計画されています。
日本でも日本版の「セカンドステップ・コース1 (4-8歳向け)」が出版され、各地で普及活動が行われているそうです。詳細は日本子どものための委員会のホームページを参照してください。
3歳を過ぎたらアンガーマネージメントを取り入れよう
3歳の子どもたちに対するアンガーマネージメント教育の最初のステップとして私がお勧めしたいのは、まずは、絵本の読み聞かせに上に紹介したようなものを取り入れることです。
それから、本人が怒ったり泣いたりしているときに、その気持ちをできるだけことばで表現する練習をすること。
まだ語彙が不十分で、気持ちに忠実な表現をすることが大変なときもあるので、ぜひそこをサポートしてあげましょう。親子の会話の幅も広がり、一石二鳥です。
そして、言語化することが上手になったら、徐々に、表現して伝えるときの表情やニュアンスなど、相手と良い関係を築くためにどのような振る舞いをしたらよいかを考え、スキルを伸ばしていきます。
こういったスキルを身につけることができれば、保育所や幼稚園での「たたいた、たたかれた」の問題も減りますし、お友達ともよりよい関係で、毎日を気持ちよく過ごせるようになっていくと思います。