精神科医と小児科医が勧める、マタニティーブルーや産後うつを防ぐためにできる5つの工夫

先日、『産後うつを減らすためにできること』というテーマのレクチャーを聞きました。講演をしてくださったのは、ロサンゼルスの小児科医、ハーヴェイ・カープ先生です。

科学的な視点で、様々なことを教えてくださって、とても興味深く役に立ったので、早速、そのときのお話の概要をまとめてみます。

マタニティーブルー、産後うつ、産褥精神病とは?

マタニティーブルー

産後2~3日の間に、約30~50%の方が情緒不安定になったり、不眠、抑うつ気分、不安感、注意散漫、イライラ感などの症状を経験すると言われています。

これらの症状は産後の5 日目頃にピークを迎えることが多く、ほとんどが10 日目ぐらいまでには軽快します。

これがマタニティーブルーと呼ばれるものです。

マタニティーブルーの症状の例

  • 涙もろさ
  • いらいら
  • 神経質になる
  • 普段は気にならないようなことに傷つく
  • 不眠
  • 食欲低下
  • 落ち着かない
  • 自信が持てない
  • 困惑しやすい

マタニティーブルーは、短期間で一過性のものですので、投薬などは行わないことが多いです。

自分自身が産後であり、赤ちゃんとの新しい生活に慣れず疲れていることや、マタニティブルーについて理解し、うまく自分をリラックスさせてあげるようにしましょう。

産後うつ (PPD: Postpartum Depression)

マタニティーブルーの期間が過ぎても、まだ症状が続いている場合には、産後うつを考えます。

米国精神科学会の診断基準では,産後 4週以内でその症状が認められるものを産後うつ病としています。

産後うつの症状の例

  • 母親としての役割が果たせていないと感じる
  • 赤ちゃんの発育が異常なまでに心配になる
  • 育児書やインターネットを調べ過ぎては不安になる
  • 思い通りにいかないと、自分の育て方や赤ちゃんがおかしいのではないかと感じる
  • 将来に希望を持てない
  • 赤ちゃんや家族に愛情を感じない
  • 赤ちゃんが泣いていても、長時間放っておいてしまう
  • 頭痛や体がだるくて、ヤル気がでない
  • 自分を責めてしまう
  • 忘れっぽく、いつもどおりに物事が行えない
  • 死にたいと思ってしまう

 

産褥精神病

産後の心の病気の中でも最も重篤なものもあります。頻度は稀で1000 人に1名の割合といわれています。

通常は出産後 3~14 日以内に生じますが、これはとても重篤な状況ですので、入院を含めた精神科医による緊急の対応が必要です。本人や家族だけで抱え込まないで、すぐに受診しましょう。

産褥精神病の症状の例

  • 極端な混乱
  • まとまりのなさ(支離滅裂)
  • 多弁になったり、躁状態になる
  • 拒食傾向
  • 疑い深くなる
  • 常識はずれの言動
  • いらいらする(焦燥感)
  • その場にないものが聴こえたり、見たりする(幻覚や妄想)
  • 常に動き回る

 

マタニティーブルーは経過を注意深く観察、産後うつと産褥精神病は精神科医に相談することが必要と考えておきましょう。

 

産後うつの生理学的・心理的・社会的要因を考える

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生理学的な要因:ホルモンバランスの急激な変化

産後は、胎盤からの女性ホルモンのエストロゲンやプロゲステロンが急激に減少します。

また、乳汁分泌を刺激するプロラクチンというホルモンが産後直後に速やかに下降しその後一週間以内に再び上昇するといった風に、ホルモンバランスの急激な変化が起こります。

そういった急激な変化はメンタルにも大きな影響を及ぼすとされています。

心理的・社会的要因:ストレス

  1. 母親として担うことになった新たな役割、24時間絶え間なく育児に従事することなどによる葛藤やストレス
  2. 経済的な問題
  3. 家族間の相互作用 (夫や実母、義両親との関係など)

 

こういった心理的・社会的要因が、前述のホルモンバランスの急激な変化のような生物学的要因と重なり合って、うつ病がおこると言われています。

『心が弱いから』などといった解釈で接したり、本人にさらにストレスをかけてしまうような言動は慎みましょう。

また、産後うつや精神病は、適切な治療を受けることで改善する可能性が高いですので、我慢せずに、かかりつけのドクターに相談をしましょう。産婦人科の先生に申し出て、精神科医を紹介してもらうことも可能です。

 

産後うつの対策としてできる工夫

以下の対策が一般的には知られています。

1. 完璧にやろうとしない

母親になったばかりで、子育てをパーフェクトにこなすのは難しいことです。夜中にも授乳やおむつ換えで頻繁に起きたりしなくてはいけませんし、思いもよらないことが起きてフラストレーションが溜まりがちです。

赤ちゃんのお世話で精一杯になり、家事ができなくてもそれは仕方のないことです。自分を責めたり追い詰めたりしないで「完璧にやらなくてもいい」と考えましょう。

2. インターネットや育児本の情報を鵜呑みにしすぎない

子育てをするママにとって、様々な情報は有難いものではありますが、子どもは一人一人個性があり、どの子の成長過程にも違いがあるものです。

インターネットや育児本の内容は一般論であったり、筆者個人の視点で書かれているので、不安を感じたときには産婦人科や小児科の主治医、看護師、地域の保健師などに相談するのが良いでしょう。

乳児健診のときに相談したいことをメモしておくのも良いですね。専門家の『大丈夫ですよ』の一言で不安はすっきりと解消されたりするものです。

3. 睡眠時間を確保する

じつは、これがものすごく重要なんだそうです!

母親の睡眠不足は、産後うつ(PPD)、ネグレクト、乳幼児突然死症候群、授乳困難、シェイキングベイビー(虐待)と関係があると科学的に証明されています。

 

Harvey Karp先生の “Happiest Baby”というメソッドに学ぶ

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赤ちゃんが落ち着くためには、コツがあります!赤ちゃんが生まれつき持っている力を上手に利用するのだそうです。

L.A.で開業している小児科医、Dr. Harvey Karp(ハーヴェイ・カープ医師)の提唱するメソッドは、シンプルで分かりやすいと思います。

先生がこのメソッドの考え方を用いて赤ちゃんを泣き止ませる場面はこちら⬇️ お見事ですね!

Calming reflex – 赤ちゃんが落ち着くために備わっている反射について

赤ちゃんにシーといったり、抱きしめたりするとなぜ落ち着くのか、ご存知ですか?

赤ちゃんには、生まれつき備わった5つの反射 (5つのS、5つのスイッチとカープ先生は呼ぶ)があるそうです。

1. Swaddle:おくるみで赤ちゃんを包む

まずは以下の動画か写真で、赤ちゃんの包み方を確認してください。

赤ちゃんはこのようにおくるみでキュッと包まれることで胎内環境を思い出して落ち着くのだそうです。アメリカではどこの両親学級でもこのおくるみのやり方を習います。

おくるみは、私の経験上、ごわごわしたものよりも柔らかいガーゼ素材をお勧めします。

日本で一般的なふんわりと包む系ではなく、このビデオのように比較的しっかりと包みこむタイプのものを使用します。

 

 

2. Side or stomach position  赤ちゃんが落ち着いたら、横向きやうつ伏せにし、泣き止ませる

赤ちゃんは仰向けよりも、横向きやうつ伏せの方が安心するのだそうです。

おくるみで包んだまま、赤ちゃんをそっと横向きにしてみましょう。そして、次のシーッの音を使うと、赤ちゃんはすーっと静かに泣き止むそうです。

(注意:うつ伏せは睡眠時の突然死と関係があるので、うつ伏せでは寝かせないこと)

 

3. Shush シーっという音で、さらに心を落ち着かせ、眠りを誘う

赤ちゃんには、必ずしも無音の環境だけが良いわけではないのだそうです。

シーッという音を聞くと、赤ちゃんはお母さんのお腹の中で聞いていた、母親の血流の音を思い出すのだそうです。

 

4. Swing  ゆらゆらすると、胎内を思い出し、安心して眠ることができる

お母さんのお腹にいた頃は常にゆらゆらしていた赤ちゃんたち。

外界に出てきてからも、おくるみで包まれてゆらゆらされるのが大好きなんだそうです。

 

5. Suck おしゃぶりを口に入れるとさらにリラックスできる

おしゃぶりは睡眠時突然死の予防にもなるのだそうですよ!

もう少し詳しく知りたい方には

Calming reflexやHarvey Karp先生の Happiest Babyのメソッドについて詳しく書かれた、以下の2冊をお勧めします。

黄色い本の方が対象年齢が広く、5歳くらいまでをカバーした内容になっているそうです。

 

育児に追われていると、ついつい自分のことが後回しになってしまいがちですが、お母さんが心身とも健康であることはお子さんの幸せにも繋がります。どうか「赤ちゃんが寝ている間に家事をしよう」などと思わずに、できるだけ赤ちゃんと一緒に寝る、または体だけでも休めるようにしてください。

育児の大変さは、子どもの成長とともに変わります。生まれたばかりの頃のような緊張や不安、頻回の授乳などによる親の睡眠不足などは、この先ずっと続くわけではありません。子どもが大きくなれば、状況が変わって楽になる部分も出てきます。

もう一度言いますが、本当に調子が悪いと感じたときは決して我慢せずに、専門医の受診をしてアドバイスを受けましょう。ご自分を労わることを忘れないでくださいね。

ABOUTこの記事をかいた人

アメリカで娘を出産し、バイリンガル育児をしている精神科医ママの日記です。メンタルヘルスの専門家としての視点や、研究論文などから得たヒントをもとに上手な声かけや楽しく学ぶ習慣作りをし、親子ともに楽しくストレスの少ない子育てを心がけています。英語の絵本やおすすめ教材、健康管理や家事の時短のコツなど、日々の試みから役に立ったことなどを発信中です。