子育てにおいて「褒めること」はとても重要であると、皆さん、耳にしたことがあることでしょう。
ですが、一般論としての「褒めて育てる」「褒めて伸ばす」を文字通り実行しているだけでは、その効果を最大限に得ることは難しいですし、厳しく叱りすぎて自信を喪失させてしまうのも怖いことです。
このような子育ての悩みに答えをくれる、2つの研究を見つけました。
どちらの研究にもスタンフォード大学の心理学教授のキャロル・S・ドゥエック(Carol S. Dweck)という方が関わっています。
まずは、彼女の著書をご紹介します。
「人間は、学習し、変化し、伸びることができる」という基本的な考え方やマインドセットが、どのように人間を、また、人間関係を変えていくかという可能性を述べている、素晴らしい本です。
Mindset: The New Psychology of Success
子どもの褒め方が、性格ややる気にどう影響を与えるのか調べた研究
心理学から見た子供のタイプ:努力型 or 失敗回避型
ドゥエック氏は子供を対象に研究を進める中で、子どもを2つのグループに若手います。
- 学ぶことが大好きで何にでも挑戦しようとする子
- 失敗する事をおそれ、新しい事に挑戦するのを避ける子
研究では、そういった子どもの性格やタイプには、親が子供をどのように褒めるかが大きく影響を与えていることがわかったそうです。
能力を褒めるグループと、努力を褒めるグループの比較
上の著書の中で紹介されている研究では、思春期初期の子どもたち数百人を対象に、知能検査のかなり難しい問題を10問やらせました。ほとんどの生徒がまずまずの成績なのですが、終わった後で、成績が同じくらいのグループになるように子どもたちを分け、各グループごとに2タイプの褒め言葉をかけたそうです。
一方のグループでは子どもの能力を褒める:「まあ、8問正解よ。良く出来たわ。頭がいいのね。」
もう一方のグループでは、子どもの努力を褒める:「まあ、8問正解よ。良く出来たわ。頑張ったのね。」
そして、次の新しい問題を見せたとき、新しい問題に挑戦するか、同じ問題をもう一度解くのか、どちらかを選ばせるという実験を行ったそうです。
すると二つのグループの間で、明確に差が現れました。
まず、才能(頭の良さ)を褒めたグループは、新しい問題を避け、同じ問題を解こうとする傾向が強くなりました。
失敗をすることが怖くなってしまったのです。能力を褒められていると「失敗したら自分はダメな人間だ」と捉えるようになってしまうのです。
一方で、努力を褒められた子どもたちは、その9割が新しい問題にチャレンジする方を選び、学べるチャンスを逃さなかったのです。
努力した過程を褒めると、子供は努力する事に喜びを感じるようになるのですね!
子どもたちは難しい課題とどう向き合うのか?
その後、ドゥエック氏らは子どもたち全員に難題を出しました。
才能を褒められていたグループは、「難問を解くこと=失敗するのではないか」という不安やフラストレーションを感じ、「自分はちっとも頭が良くない」「こんな問題を解いても楽しくない」と思うようになったそうです。そして難題を前に、「自分は頭が悪いのだ」と考えるようになっていました。
努力を褒められていたグループは、難問をだされても嫌がらず、むしろ難しい問題は面白い、挑戦したいと答える子どもが多かったそうです。なかなか解けない問題があったとしても、イライラしたりせず、「もっと頑張ろう」と考えられるのです。
こうして、努力を褒められた子どもたちは、積極的に難しい事に挑戦できるという結果が導かれました。
褒め方は知的能力にも影響を与える
その後の検査でも、この2つのグループには著名な差が生まれていきます。
才能を褒められていたグループは、難問に直面した後、成績が落ち、再び簡単な問題がだされても成績は回復しなかったそうです。自分の能力に自信が持てなくなってしまったのです。
一方、努力を褒められていたグループのはどんどん伸びて行きました。難問に挑戦した事で、自信がつき、自信がついた事で取り組みが増え、スキルが伸び、その後、再び簡単な問題が出たときには、すらすら解けるようになっていました。
つまり、能力を褒めると生徒の知能が下がり、努力を褒めると生徒の知能が上がるということなのです。
3歳までの日々の声かけや褒め方で、就学時のやる気が変わる
もう一つ、ドゥエック氏とシカゴ大学の先生たちの研究の論文で、38ヶ月までの親の褒め方と5年後の子どもたちの様子を調べているものがあります。
53ファミリーを2つのグループ(子どもの努力やプロセスを褒めるグループと、生まれ持った才能を褒めるグループ)に分け、7年間追跡調査し、子どもたちが14ヶ月、26ヶ月、38ヶ月のときに、各家庭で90分間、親子のやりとりを観察。その90分間中、研究者は親が発した「ほめ言葉」を全て書き取りました。
そして、5年後、それぞれの子どもたちに再度、質問をします。そして、これらのデータを解析し、幼少期の親の褒め方が子どもたちのやる気にどのように影響を与えているか調べたのです。
親が、頑張っている過程や努力を褒めるようにしていた場合、5年後、子どもたちは「知性や良い行動は、努力によって伸びる」「今できないことも、その先ずっとできないとは限らない」という見方をする傾向が強かったそうです。
一方で、生まれ持った才能や素質を褒めるグループは人数が少なく、有益な情報は得られていないようです。
子どもを褒めるにはコツがある!
褒め方の例をいくつか挙げて、その結果、子どもがどんな気持ちになるかを考えてみましょう。
子どもの褒め方のNG例
- 「そんなにすぐに覚えられたなんて、あなたは本当に頭がいいのね!」
→早く覚えられなければ頭が良くないんだ、急がなくては。ゆっくり考えなくてもいいんだな。
- 「あのピアニストさんを見てごらん、あの子はプロ顔負けだし、将来有望だね」
何か難しいことをしないとすごいと思ってもらえないんだ。私にはあんなふうに弾けないから、やめてしまおう。
- 「あなたはすごいわ。勉強しなくても成績がいいなんて」
→勉強しなくてもすごいと思ってもらえるなら、勉強はしないほうがいいのかな?
こういった誤った褒め方をすると、励ましているつもりが、相手には違うメッセージを送っていることになってしまうんですね。
良い子どもの褒め方の例
- 「ずいぶん長い時間、一生懸命にサッカーしていたね。集中力もあってすごい!」
→一生懸命やること、集中することはいいことなんだな!
- 「この絵、きれいな色をとても沢山使って書いたのね。色の使い方の事を話してくれる?」
→私の選んだ色を気に入ってくれて嬉しいな。もっと違うパターンでやってみようかな。
- 「この作文には自分の考えが書いてあるね。この考え方、好きだな。」
→自分の考えを褒めてもらえて嬉しいな。もっと違う考え方もしてみよう。
- 「心をこめて弾いてくれて本当にうれしいわ。ピアノを弾いている時ってどんな気分?」
→心をこめたのが伝わったんだ、よかった。ピアノ、好きだな〜。楽しいな。
このように、褒めるときは、能力をではなく努力して成し遂げた事や、本人が何をどのようにできるようになったのか、その過程を褒めると良いのです。
子どもの生まれ持った能力ではなく、努力や過程を褒める
上記の例でわかるように、努力や過程、本人の選択を褒めることで、子どもたちのモチベーションはグーンとアップするのです。
現代のような先行きの見えない社会の中で、自分で考え、道を切り開いていけるようなるには、自分に自信を持つことが大切ですよね。
親が愛情を伝えることで子どもが持つ自信というものは、最初は客観的には根拠のないものかもしれません。
ですが、「自分は愛されている」「大切な存在だ」「やればできるんだ」という気持ちは、子どもの原動力となり、高いモチベーションを持って好きなことに取り組んでいれば、次第にそれは本人の特技や強みになります。
特技や強みが、誰もが認めるところとなれば、それは根拠のある自信になります。
ですから、親からの愛情や家庭で培った自己肯定感は、すべての土台となるのです。
親が「あなたは才能があるから」という褒め方だけをしてしまっていると、うまくいかなかった時に「才能がないから」のひとことで終わらせてしまう原因になるかもしれません。心が折れやすい子になってしまうのです。
「うちの子はセンスないから」「生まれつき向いていないのよ」という風に勝手に判断したり、そういった言葉をお子さんの前で使うことで、チャンスを奪ってしまう危険性もあります。
よく日本では謙遜の意味で、親がお子さんの前で「うちの子は向いていない」「センスがない」といった表現をしたり、子どもの弱点を披露してしまいがちです。
ですが、素直な子どもたちは「あぁ、自分には向いていないんだ、センスがないんだ、ダメなんだ」と内心、ものすごく傷ついているのです。
そういう場面を見るたびに「あぁぁ、本人の前でそんな風に言わないで!」と思ってしまいます😭子どもにとって、親の言葉はとても影響力が大きいのです。悪い自己暗示をかけないよう気をつけましょう🍀
子どもたちの持つ可能性を信じて、過程や努力に目を向け、褒めるようにしていきたいですね!